Summary障害者雇用は、日本だけでなく、他の海外諸国でも行われています。ここでは、主に日本と海外の障害者雇用の状況の違いを見ていきたいと思います。1.障害者雇用の基本的な考え方まず、日本での障害者雇用の基本的な考え方について見ていきます。合理的な配慮の義務がある合理的配慮とは、障害者と健常者がお互い平等に働けるように、調整や配慮を行う事を指します。日本では、障害者雇用促進法が改正され、雇用主に対して、合理的配慮の提供義務が法律によって定められております。配慮の内容は、障害者の状況や考え方、働く企業での職場環境によって変わりますが、障害を持つ当事者の意見を取り入れながら、働く環境の配慮を検討していく必要があります。障害者差別の禁止障害者差別解消法と障害者雇用促進法によって、障害を理由とする差別的取扱いは禁止されおり、障害者差別解消法では、日常生活や社会生活に関わる分野が該当、障害者雇用促進法では、雇用に関する分野が対象となります。機会の平等の提供雇用分野の障害者差別の禁止では、雇用機会を平等に提供する機会を設ける事を求めています。その為、障害者であることを理由に、採用・募集や研修の機会など、排除することは禁止されております。更に昇進等に関して、障害を不利な条件とするのは、差別と見なされます。公的補助の実施障害者の生活は、国や地方自治体からも公的制度や補助を実施して、生活をサポートされています。次のような公的補助が準備されています。生活保護・・・病気や怪我が原因で働けない、障害などの為に経済的に困ったときに活用できる。特別障害者手当・・・著しく重度の障害があり、日常生活において常時特別な介護が必要なときに支給される。障害年金・・・病気や怪我などが原因で、一定程度の障害が継続する場合、生活を保障するための制度。2.諸外国の制度日本のように法定雇用率制度をとって、雇用率未達成に対し納付金を課す国もありますが、法定雇用率のない国もあります。それぞれの国で、どのような障害者雇用をしているのか見ていきます。法定雇用率を採用している法定雇用率を採用している、ドイツ、フランス、韓国の制度を参考に見ていきましょう。ドイツの制度ドイツの障害者雇用率制度は、従業員20人以上の企業ごとに、全従業員の5%に該当する数の障害者を雇用する制度が定められています。日本の制度は、ドイツの制度を基に制定されている為、類似する点が多くあります。納付金を原資として給付金が支払われる事や、助成金制度です。また、納付金を支払っていたとしても、障害者の雇用の義務があるとする考え方も同じものとなっています。フランスの制度フランスの障害者雇用率制度は、従業員20名以上の事業所ごとに、全従業員の6%に該当する数の障害者を雇用する義務が定められています。法定雇用率を達成できない企業は、次のような制裁的な措置が取られています。3年以上、納付金以外の方法によって雇用義務を果たしていない企業には、企業規模にかかわらず、法定最低賃金時給の1,500倍の納付金が課せられる。雇用義務を全く果たしていない企業には、法定最低賃金時給の1,875倍に当たる額の国庫への支払いという制裁が科せられる。公的機関の行う入札では、雇用義務の遵守状況を示す文書の提出が要求され、雇用義務を守らない企業は、入札への参加拒否事由になる。韓国の制度韓国の障害者雇用率制度は、従業員50人以上の事業所ごとに、従業員の5%以上の障害者を雇用する事が定められています。法定雇用率が未達成の企業は、納付金の負担額が一律ではなく、障害者雇用割当数の達成率に応じて負担金が発生します。なので、障害者雇用人数達成率が低い場合には負担金額が上がります。負担金を増やす事により、障害者雇用の促進を目指す施策が行われています。法定雇用率を採用していない法定雇用率を定めていないアメリカ、イギリス、スウェーデンの制度を見ていきます。アメリカの制度アメリカの障害者雇用では、法定雇用率は定められておりません。差別禁止法による施策が中心となっています。雇用支援サービスは、労働省の援助で実施や、財源を連邦政府が負担している職業リハビリテーションなどがあります。各州によっても対応はかなり異なるようです。サービスとしては、職業訓練、評価、カウンセリング、リハビリテーション期間中の生活費、職業紹介とリハビリテーション支援機器費用などが設けられています。イギリスの制度以前のイギリスにおける障害者雇用制度は、障害者雇用を割り当てる法律があり、日本と同じように割り当て雇用制度が取られていました。しかし、割り当て雇用制度はうまく機能しなかった為、1995年に制定された「障害者差別禁止法 (DDA法)により廃止されました。現在は、障害者関連の給付金や、給付受給者を有期雇用へ移行させるプログラムを通して、障害者雇用をサポートする雇用対策が取られています。一般就職が困難な重度障害者は、一般の職場に代わる就労の場として、政府出資による「レンプロイ公社」を通じて保護雇用や、援助付き就業が活用されています。スウェーデンの制度スウェーデンの雇用政策は、全ての者に仕事をという事を目標とし、障害者雇用対策は労働市場施策として実施され、一般の労働を保障するという観点からの施策が行われています。その中でも、一般企業への就労を目指す国営企業のサムハルは有名です。サムハルでは、職業的障害を持つ人達に、意義のある雇用の場を提供する目的があり、大手有名企業からの下請け作業も多く、全国300の地域に800の作業所を持っています。サムハルで就労スキルや生産性が高まると、サムハルを卒業し、一般企業で働くことを目指します。サムハルの役割は、障害者が働けるようにする事に加えて、障害者も労働者として社会貢献する事を示す責任を担っております。スウェーデンの障害者雇用施策は、所得保障や質の高い福祉水準によって支えられています。障害者の働き方として、一般企業で雇用される、一般企業で雇用されて一部補助を受ける、サムハルを通じて働く、福祉的な施設での就労に従事する、などの選択肢がいくつかありますが、どの選択肢を選んでも、経済的な違いはありません。3.日本における制度面の課題日本の障害者雇用の方針は、障害者雇用率制度と、障害者雇用納付金制度です。納付金制度は、障害者雇用の未達成企業から徴収された納付金を、達成できている企業に調整金や助成金として還元して運営されています。ただし、目標が達成されると納付金の収入は減少し、制度を維持することができなくなってしまうという問題点もあります。制度障害者雇用率制度と、障害者雇用納付金制度は、障害者雇用義務化がスタートした当時、中小企業での雇用率が高く、障害者雇用に積極的な中小企業に大企業が支援するという目的がありました。しかし現在では、大企業での障害者雇用が進む一方、中小企業では障害者雇用が進んでいない現状があります。結果的に中小企業が支払う納付金が大企業に回ってしまうという制度的な課題が問題視されております。4.海外から取り入れられる視点海外では、障害者をどのように捉え、どのように共存していくのかという視点は参考になるかもしれません。日本では、障害者というとかわいそうな人、サポートの必要な人と見られている現状がありますが、海外では、さまざまな特徴・特性を持った人たちの1人という考え方をされています。障害者本人の得意な所を見つけ、苦手な部分は、何らかの支援や分担で補完することが一般的です。それぞれの役割を担える柔軟な組織運営を考えていく必要があります。5.世界における障害者の数13億人世界人口のうち、障害のある人々が占める割合は15パーセントで、その内ビジネスへ参加しているのは、僅か3パーセント程度しかありません。障害者が積極的に社会へ参加出来る取り組みについて、積極的に公表している企業はわずか5パーセントにしか過ぎません。一方で、障害者やその友人、家族を合わせた購買力は13兆円とも言われています。企業が積極的に障害者雇用へ向けた環境をつくり出さない限り、誰もが労働力として能力を発揮できる社会は実現できません。The Valuable 500は、ビジネスにおける障害者インクルージョンを目指して結束した世界最大のネットワーク組織です。日本をはじめ世界から加盟している有力企業と共に社会課題に取り組み、転換を生み出すところまであと少し。The Valuable 500は、社会課題変革の扉となる可能性を秘めているのです。6.多様な人の視点がより良いものづくりにつながるソニーグループでの取り組み事例を紹介します。戦後間もない1946年の創業当時から、障害の有無にかかわらず、全ての社員が生き生きと働くことができる環境づくりを進めてきました。創業者のひとり、井深大(いぶか・まさる)さんは、知的障害のある人が働くための場所として1973年に社会福祉法人希望の家を設立しました。その思いは、2002年に設立した雇用の場である特例子会社ソニー希望・光株式会社においても継承されており、社員の持つ集中力の高さや正確さといった特性を活かし、エレクトロニクスやゲーム開発などにもキャリアを拡げております。また、1978年設立のソニー最初の特例子会社ソニー・太陽株式会社では、『障がい者だからという特権無しの厳しさで、健丈者の仕事よりも優れたものを、という信念を持って』という設立時に井深さんが社員に語った言葉を理念に掲げ、高付加価値の業務用マイクロホンの製造を行っております。時代背景を考えると厳しい言葉にも思えますが、当時この言葉を聞いた障害のある社員たちは、人としての尊厳を認めてもらえたと仕事に励みました。ソニー・太陽やソニー希望・光で培われたノウハウは、グループ各社にフィードバックされ、ソニーグループの障害者雇用拡大にも大きく貢献しています。7.今後への期待2008年に国連で障害者権利条約が採択されたのを契機に、障害があるからできないのではなく、そんな社会のシステムこそが障害であると瀬水でも考えられるようになってきました。商品やサービスへの検討や対応をはじめ、障害のある方たちに向けて変革が起きているいまだからこそ、経営者自らが方向性を示し、行動することが必要な時代が徐々に進んでいます。The Valuable 500に加盟している日本の企業には、先駆的な役割となる実例がたくさんあると思います。障害者の社会的貢献への道が広がる、誰もが活躍できる日本の未来に期待しています。障害のある人々が、日常的に抱えている悩みや苦労を理解することは簡単な古都ではありません。だからこそ、The Valuable 500に加盟する企業をはじめ、ビジネスリーダーたちが旗振り役となって障害者の社会的参加を推進し、その取り組みを広く発信することが、誰もが能力を発揮し活躍できる社会の実現に繋がっていく事に期待しましょう。今回の記事のまとめこの記事では、海外の障害者雇用の状況を見てきました。日本より進んでいる事例もありますが、一概に比較できない事もあると認識しておくべき点です。なぜなら、国によって障害認定の基準や法律、社会制度なども異なるからです。日本でも、海外の取り組みを参考にしながら、障害のあるの方でも能力を発揮できる社会を目指し、障害者雇用促進の取り組みを進めていく必要があります。最後に日本では、未だに法改正などの審議が遅れていたり、障害者と健常者の賃金の違い、また一人で自立した生活が困難な方が多いことが現状です。一人一人の能力に応じた職業訓練や雇用体系、健常者との変わらない保証やサポート、安定した収入の維持が課題だと言えるでしょう。いかがでしたでしょうか? こんな記事が読みたい!といったリクエストがあれば ぜひお問合せからご要望お待ちしています。